蒔絵(まきえ)と金粉

漆器の表面に漆で文様を描き、この漆を接着剤として金属粉・貝粉などを蒔いて加飾する技法を蒔絵と言います。そしてその技法には非常に多くのものがあります。歴史的に見ると、現代に通じる技法は平安時代以前から徐々に確立されたものと考えられますが、これに使われる金粉については、当時はただ単に地金を鑢(やすり)でおろしただけのものであったので、大きさが不揃いで、形状も荒々しいものだったのです。

その後、技術の進歩と共に粉の形状や粒の大きさといった面に改良が加えられていき、現在では代表的な形状のものが五種類、更に同じ形状でも大きさ・色によって篩い分けられたものを含めると約三百種類にも亘ります。そこでここでは代表的な五種類の形状について概要をご説明致しましょう。

 

金属粉を用いた蒔絵:金蒔絵(かなまきえ)

形状による違いを説明する前に、蒔絵の工程を少し掘り下げてみましょう。

 

まず、塗物の表面に漆で文様を描き、この漆が乾かないうちに粉を蒔き沈め乾燥させます。更に漆で塗り固め粉をしっかりと固定してから、表面を木炭・サンドペーパー等で研ぎ出します。

乾燥した漆と共に粉を半分近く削ることによって、金属面が出来る訳です。

使用する粉の大きさによって、粗いもの程仕上りは金属的な光となり、細かい程その光は鈍くなり、同じ金属でも夫々の発色が変化します。

製作者はこの仕上りの違いを掌握し、必要とされる図柄のどこにどんな粉を使用するかを決めていくことになります。

 

代表的な五種類の形状

1:丸粉

金などの地金を鑢でおろして鑢粉(やすりふん)をつくり、これを鑢盤の上に散布し、鑢目を付けた金槌で円を描くように軽く摩擦して更に細かくしながら丸みをつけます。まさに川原の石が水の流れの中で割れて更に角がとれて丸くなっていく様です。

形状は文字どうり球形に近く、現在では出来あがった粉を直径により約5ミクロン(千分の5mm)から0.3mmまでの物を17段階に篩い分けし、細かい物から順に丸粉1号、2号……という様に表示されます。金蒔絵の最も基本的な粉です。

これらは鎌倉時代に出来た製粉方法と云われております。

この丸粉を用いた蒔絵を本蒔絵というのです。

また、半丸粉(はんまるふん)と呼ばれる、鑢粉にわずかに丸みをつけたものもあり、これは丸粉と後に紹介する「平粉(ひらふん)」の中間の粉です。

 

2:平目粉(ひらめふん)

丸粉を潰して小判型にしたもので、約60ミクロンから3mm程の物までを13段階に篩い分けられます。

1の「丸粉」では粒子が小さく、潰しても60ミクロン程度までの直径にしかならないので、平目粉用に特大の丸粉を作り、これを潰して作られます。

平安末期から鎌倉時代にかけて造られた技法です。

丸粉と比較すると直径も大きく、最初から平滑な金属面を持っているので、キラキラとした仕上りになるわけです。

平目粉を蒔いて透漆(すきうるし)を塗り、研ぎ出したものを平目地(ひらめじ)と言います。

また、平目粉を蒔かずに一粒づつ置いていく置平目(おきひらめ)という技法もあります。

 

3:梨地粉(なしじふん)

基本的には平目粉をさらに薄く延ばしたものと言えますが、材料は鑢粉をそのまま使用するので、周囲がギザギザになっています。

厚さは約2から3ミクロン程で、平目粉ほど艶はありません。直径により約60ミクロンから0.7mmの物を10段階に篩い分けます。

室町時代から見られる技法です。

漆を塗った上に梨地粉を蒔き、その上に梨地漆を塗って粉を覆い、粉を研ぎ出さずに漆を透かして見せたものを梨地といいます。

 

4:平粉(ひらふん)

鑢粉を小麦粉ほどまで砕いて微細にしたものです。平均5から6ミクロン程度の粉で、細かくする工程で粉形状が薄くなるので、平蒔絵(ひらまきえ)に用い、蒔いた表面を磨くだけで研ぎ出しません。

 

5:消粉(けしふん)

これまでの粉は「鑢粉」を材料にして製造されるものでしたが、これらとは異なり金箔を細かく砕いたものです。

現在、石川県金沢市を中心に生産されている金箔は、1gの金を開いた新聞紙1枚程の延べ面積まで叩いて薄くすることで有名ですが、消粉はこうして出来た金箔を、溶かしたニカワ等と共に練ることで小さくちぎれて、微粉末状になったものです。

多量の水でニカワ分のみを洗い流し乾燥させた粉は先の「平粉」同様、小麦粉の様に滑らかなもので、金粉の中では最も細かいものです。

金箔の厚さが約0.3ミクロンで、これを横方向に平均3ミクロン程度まで粉砕したものですから、如何に細かいものかお分かりいただける事と思います。

蒔絵以外にも、沈金細工や絵画・陶磁器の絵の具としても使われますが、蒔絵では消粉を綿に含ませて、描いた漆の上に撫で付ける様にして用いられます。

割合手間が掛からず、少量でも広い面積に延びる為、主に安価な漆器の加飾に利用される事が多いようです。

 

以上、代表的な粉の形状についてご説明致して来ましたが、夫々の粉は金だけではなく、銀・プラチナ等、金属の種類別に夫々の形状を持ったものがあります。

また、同じ金でも銀を20%程混ぜて草色にした「青金」、更に銀を増やした「水色金」等、金の中でも色のバリエーションがあります。



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